横浜市は、上瀬谷通信施設跡地(以下「上瀬谷跡地」)を含む環状4号沿線に「次世代型」バスを導入する計画を明らかにしました。
横浜市は13日の市会常任委員会で、上瀬谷通信施設跡地(瀬谷、旭区)と相鉄線瀬谷駅周辺を結ぶ交通手段として、次世代型のバスを導入すると報告した。跡地で2031年ごろに開業する大型テーマパークの来場手段を確保する。さらに、一帯を含むエリアを公共交通が脆弱(ぜいじゃく)な「交通空白地域」と位置付け、延伸などによって新たなバスネットワークを構築する計画も明らかにした。
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この計画は、さして先進的ではないうえに、バス業界をとりまく現状を踏まえておらず実現可能性が低いため、撤回してほしいと思います。どうしても必要なのであれば、鉄道やモノレール、新交通システム、LRTなどの軌道系交通などを導入すべきだと考えます。
上瀬谷跡地への「次世代型」バスの導入についてより詳しくは、以下のリンクをごらんください。(PDF)
この計画は、バス専用道路を建設すること、将来的に隊列走行や自動運転を検討していることを除けば、「ただの路線バス」です。
そもそもこの地域には、2027年に上瀬谷跡地で開催される「花博」への輸送手段として新交通を導入する計画でした。このため横浜市は、横浜市南東部で新交通「シーサイドライン」を運行中の、市の外郭団体である株式会社横浜シーサイドラインに運営を打診しました。しかし、シーサイドライン社は、いくつかの理由を挙げてこれを拒否しました。
(株)横浜シーサイドライン(代表取締役 三上章彦)は、横浜市より依頼のありました「(仮称)上瀬谷ラインへの事業参画」(令和3年9月7日付)について、昨日(令和3年11月25日)、以下の理由を付して「現時点で参画はしない」と回答しました。
1 テーマパークの事業主体や具体的な事業内容が未定で、横浜市から提示された来園者数の予測値や交通分担率などが大きく変動する可能性があること。
2 (仮称)上瀬谷ラインの整備については、具体的な延伸計画が示されていないことから、将来に渡りテーマパークに依存した路線となることが明白であるため、テーマパークのコンソーシアムからの出資が必要と考えているが、これが明確になっていないこと。また、適切な工事期間や整備事業費が示されていないこと。
3 (仮称)上瀬谷ラインの運営について、需要予測等が弊社の認識と大きく乖離していることに加え、多額の借入金、資金ショート、債務超過の発生など(仮称)上瀬谷ライン事業単体で採算性、継続性が見込めないこと。
4 弊社が懸念するリスクヘッジ策が示されないまま事業参画した場合、新型コロナウイルス感染症の再拡大やテーマパーク事業の撤退等のリスクが発生すると、金沢シーサイドライン事業に深刻な影響を及ぼす可能性があること。
シーサイドライン 回答書
シーサイドライン社のこの回答は、実に正しかったといえます。
まず1・2について、回答当時は上瀬谷地区の跡地利用が明確には示されていませんでした。それにも関わらず、事業へ参画せよというのはあまりにもひどい話です。なお現在では、上瀬谷跡地の活用方法が地区ごとに定められており、テーマパークも三菱地所が主体となって「KAMISEYA PARK」を2031年に開業すると伝えられています。
3・4について、現実的な見通しや財政的裏付けがないにも関わらず打診したというのは、これも同意しなくて当然だと考えます。
結局、不確実性が高いまま、外郭団体だからと高をくくってずさんな計画を持ちかけたところ、シーサイドライン社が横浜市に「反抗」したのだと思います。
今回、横浜市が新交通システムなどの軌道系交通ではなく「バス」にこだわっているのも、この一件が大いに関係しているものと思われます。
さて、今回の計画は本当に「次世代型」と言えるかというと、それはお粗末だと言わざるをえません。横浜市の構想によれば、「バス専用道路を活用した」「連節バス」で、「将来的には隊列走行や自動運転も検討」することが次世代なのだといいます。しかしそれらは既に日本国内で導入されているか、現在技術開発中のもので、横浜市の見通しは甘いと思います。もし隊列走行や自動運転が実現できなければ、「ただの路線バス」です。
まず、バス専用道路について、鉄道の線路跡を活用したバス専用道路は全国各地に存在します。新交通システムとしてのバス専用道路は、ガイドウェイバスという仕組みが現に存在していて、日本でも名古屋市では「ゆとりーとライン」として2001年に導入してから20年以上が経過しています。ですから、ガイドウェイを使わないバスとなれば新交通からむしろ退化したものになります。
次に、連節バスについて、これは近年導入事例が全国各地で相次いでいるように、目新しいものではありません。神奈川県内では厚木市内や藤沢市内で導入したものが早く、横浜市内では横浜市交通局が「ベイサイドブルー」として運行しています。
最後に、隊列走行や自動運転を検討とありますが、これは現段階で研究開発または実証実験を行っている段階のもので、これを前提として事業化を図るというのは正気の沙汰とは思えません。
この計画の実現可能性について考えると、まず「2024年問題」と報道されているとおり、バス運転手不足という課題が非常に大きいといえます。上瀬谷跡地近隣では神奈中バス、横浜市交通局、東急バス、相鉄バスが路線バスの運行を行っていますが、いずれも人員不足で減便を行っており、新たなバス路線を運行するだけの余力があるとは到底思えません。横浜市によれば複数事業者による運行を想定とありますが、事前調整が行われているのか非常に疑問です。
また、先にも述べた通り、隊列走行や自動運転は横浜市単独の力で実現できるものではなく、メーカー等が技術開発中のもので、現に実現しているもの、あるいは数年後に市場に導入できると確定したものではありません。仮にこの計画が目標としている2030年代前半までに開発が完了しなかったらどうするつもりなのでしょうか。
また、仮に隊列走行や自動運転が実現したとして、非常の際に対応できるように各車両には運転手の乗車が義務付けられると考えられます。そうなると、先に挙げた運転手不足の解決策にはなりません。
以上のように、この計画はさして先進的でもなく、実現可能性も低いことから、撤回してほしいと考えます。
仮に上瀬谷跡地や環状4号周辺の交通環境に変革をもたらしたいのであれば、路線バスではなく当初考えられていたような新交通システムなどの軌道系交通であるべきだと考えます。軌道系交通であれば路線バスより人手不足の影響は少なく、自動運転などの省力化も容易に行えます。
このような既存のバスの焼き直しのような計画が発表された背景には、横浜市の「謝れない体質」があるのではないでしょうか。シーサイドライン社に頭を下げてもう一度事業を進めようと持ちかけることができないために、新交通システムを回避しなければならず、このような中途半端な計画になったのではないでしょうか。
もっといえば、シーサイドライン社からの回答書が届いた時点で、同社が指摘するような跡地利用の明確化、テーマパーク事業者の参画、延伸計画の立案、財政的な裏付けなどを行えばこのような事態にはならなかったはずです。トップダウンで決断できなかった横浜市長やそれを支える横浜市幹部の責任は重いといえます。
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